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【Column】COP30の成果が化粧品産業にもたらすインパクト ― Global Mutirão 合意を踏まえた化粧品業界への示唆 ―

Posted on 2025-12-04

2025年11月、ブラジル・ベレンで開催されたCOP30(気候変動枠組条約第30回締約国会議)では、「Global Mutirão(collective effort)」と呼ばれる最終合意が採択された。本コラムでは、その要点と化粧品産業にとっての主要な示唆を整理する。化粧品産業は天然原料・水・エネルギーを広く用いるため、気候・自然関連の国際合意の影響を直接受ける領域が他産業よりも広い。COPは”象徴”なる見方も一部あるが、COP30 の位置づけは今後の企業の事業戦略において無視できない。

1. 脱化石燃料ロードマップの不合意:企業の自主的移行戦略が競争力に直結

COP30では、脱化石燃料に関する明確なロードマップ策定には至らなかった。
これは政策的な不確実性が続くことを意味するが、同時に企業側の自主的な脱炭素戦略の信頼性が、今後ますます重要になることを示す。

化粧品産業では、

  1. 石油由来原料(界面活性剤・溶剤・ポリマー等)の代替原料開発
  2. スコープ1〜3排出の可視化および2030–2040目標の設定
  3. 再生可能エネルギー比率の向上
  4. 「脱石油」や「植物由来」を訴求する場合の根拠明示(グリーンウォッシュ回避)

これらが最優先事項と考えられる。
1石油由来原料の代替では、クリーンビューティーにおける「安心・安全」を支えるものとなる。また、4「植物由来」訴求の根拠明示は、企業の信頼性をたかめるだけでなく、欧州のグリーンウォッシュ規制法への対応にも役立つ。

2. 適応策資金を2035年までに3倍へ:サプライチェーンの“気候レジリエンス”が経営テーマに

最終合意では、適応策(adaptation)への資金拡充が合意された。
化粧品業界は以下のように気候影響を受けやすく、適応投資は避けられない。

  • 植物原料の収穫量変動(干ばつ・高温・豪雨による)
  • 農業コミュニティの労働力不足
  • 産地の森林火災・洪水による供給不安定化
  • サプライチェーンにおける製造・物流コスト増

これに伴い企業が取り得る方向性としては、

  • 主要原料の気候リスクマッピング
  • 原料産地のレジリエンス向上に関する投資(農家支援、農業改善、災害インフラなど)
  • バイオテクノロジーによる代替原料の活用
  • 適応策をESG/統合報告書の必須項目として位置付ける

このように、「気候適応型サプライチェーン」への転換が求められる。


3. 熱帯雨林破壊防止ロードマップ:天然由来原料の透明性要件が国際的に強化へ

ブラジル政府は90か国と連携し、国際交渉プロセスの外枠で
① 脱化石燃料 ② 熱帯雨林破壊防止 のロードマップを策定する方針を発表した。
また、新たな枠組み『the Tropical Forest Forever Facility(TFFF)』もブラジル政府から提案され、COP内ですでに53ヵ国が署名。ノルウェー、ブラジル、インドネシアなどが合わせて55億ドル(約8,300億円)超の資金拠出を表明している(日本は未拠出)。

これを踏まえて、化粧品産業にとっては、以下の領域のリスク管理が強化されるだろう。

  • パーム油
  • ババス油、カカオバター
  • アマゾン由来オイル・植物エキス
  • 森林由来の希少植物原料

欧州のEUDR(森林破壊防止規制)とも連動し、森林保全と紐づく調達の証明責任(Proof of Non-Deforestation)が標準化していく可能性が高い。トレーサビリティは「ある程度の可視化」ではなく、ロット単位の実装段階に入っている。


4. 多国間協調(multilateralism)の維持確認:国際基準への整合が不可避に

COP30では多国間協調の枠組み維持が確認された。これは企業にとって、以下の国際基準への対応がより欠かせなくなってくる。

  • TNFD(自然関連財務開示)
  • ISSBによる自然・気候開示の統合
  • SBTi / SBT-Nature
  • EUDRや強制労働関連規制

特にTNFDは、化粧品企業にとっても影響が大きい。中小企業での取得には難しい一面もあるが、中小ならではのアピールもできなくはない。また、天然原料は生態系依存度が高いため、どの原料が自然資本リスクと最も関連しているかを把握・開示する必要がある。

5. 自然(Nature)と気候(Climate)の統合アプローチの加速:製品価値の再定義へ

COP30では、「自然と気候のつながり」が再度強調された。
これは、化粧品ブランドの成長戦略においては、

  1. 生態系の回復(リジェネラティブ)を目的とする原料調達
  2. コミュニティと連携したフェアかつ持続的な原料確保(フェアトレード)
  3. 「自然資本にプラスの影響を与えるブランド」としての差別化
  4. カーボン+生物多様性+水リスクを一体で管理するESG指標の標準化

などの風潮を後押しすると考えられる。1リジェネラティブは、グローバルサステナブル先進企業で投資が進んでおり、今後よりイノベーティブな原料開発が進むと思われる。2フェアトレードは企業によってまだばらつきがあるが、クリーンビューティーの真髄のひとつになっていることもあり、こういった社会課題に取り組む企業が増えると想定する。3「自然資本にプラスの影響を与えるブランド」とは、まさに”ネイチャーボジティブブランド”として、クリーンビューティー推進の礎にもなりうる。

環境価値を「削減/不使用/「0」」だけで語るのではなく、自然再生にどれだけ貢献できるかが企業評価の新軸となるだろう。


まとめ:COP30は化粧品業界に3つの重要課題を提示

  1. 脱化石燃料・脱石油原料に向けた自主的な移行計画の高度化
  2. 気候適応型サプライチェーンへの転換(=適応策の組み込み)
  3. 森林保全・生物多様性保全と連動した調達の透明化(トレーサビリティの実装)

化粧品産業は自然資源への依存度が高い産業であるからこそ、COP30 が示した「気候 × 自然」の統合アプローチは、今後数年で経営そのものの前提に組み込まれていくだろう。企業は今こそ、調達・製造・ブランド価値創造の各段階において、サステナブルコスメ産業への新しい標準を構築することが求められる。

(著・長井美有紀)
*本コラムの無断転載・転用は固くお断りします

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サステナブル美容の専門家 当団体代表の長井美有紀による論文・学会発表

  • 昭和女子大学紀要『Consideration for biodiversity in the personal care products industry in Japan』(2025年3月)
  • NERPS2025 学会発表『Exploring the Potential of Blue Economy on Biodiversity Conservation in Cosmetic Industry』(2025年3月)
  • ICBIT2024 学会発表『Research about raw materials consideration for Biodiversity in cosmetics industry in Japan』(2024年3月)
  • 福井大学紀要
    『 サステナブル化粧品に関する認証と生物多様性の関わり』共同執筆(2023年1月刊行)

週刊粧業にてコラム連載中❣『化粧品の環境社会課題を知る「クリーンビューティー」講座』

現代ビジネスから取材🌐

Media Info: 25ans2022年1月号にて、当団体の長井美有紀が取材されました

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